はじめに
高校受験は、お子さんにとって人生最初の大きな試練です。
そして、保護者の皆さんにとっても、どう接すればいいのか悩む1年間になります。
「もっと勉強したら?」と言いたくなる。「志望校、本当に大丈夫?」と聞きたくなる。「このままで間に合うの?」と不安になる。
その気持ちは、よくわかります。
でも、その一言が、お子さんを追い詰めているかもしれません。
この記事では、受験期の1年間と直前期の過ごし方、そして「伸びる家庭」と「崩れる家庭」の違いをお伝えします。
第1章:受験期の子どもが抱えるストレス
想像以上のプレッシャー
受験生は、想像以上のストレスを抱えています。
- 学校の定期テスト
- 模試の結果
- 内申点へのプレッシャー
- 志望校への不安
- 友人との比較
- 親からの期待
文部科学省の調査によると、中学3年生の約40%が「受験に関する不安やストレスを感じている」と回答しています。
「家」がストレス源になっていないか?
学校では先生に、塾では講師に、常に「頑張れ」と言われている受験生。
せめて家では、安心して息を抜きたいのです。
しかし、家でも「勉強は?」「模試どうだった?」と聞かれると、逃げ場がなくなります。
第2章:プレッシャーが逆効果になる理由【脳科学からの説明】
ストレスと脳の関係
過度なストレスは、脳の機能を低下させます。
扁桃体(感情を司る部分)が過剰に活性化すると、前頭前野(思考・判断を司る部分)の働きが抑制されます。
つまり、プレッシャーをかけすぎると、逆に頭が働かなくなるのです。
「脅威」と認識される親の言葉
Blakemore教授(UCL)の研究によると、思春期の脳は親からの評価に敏感です。
「もっと頑張れ」「このままじゃダメ」という言葉は、脳が「脅威」として処理します。
結果として:
- 不安が増大する
- 集中力が低下する
- やる気が失われる
- 親子関係が悪化する
応援のつもりが、逆効果になっているのです。
第3章:受験期1年間の過ごし方
春〜夏(4月〜8月):土台づくりの時期
この時期は、まだ時間に余裕があります。
保護者の役割:
- 生活リズムを整える手伝い
- 部活との両立を見守る
- 志望校について「一緒に」情報収集する
NGな対応:
- 「もう受験生なんだから」と急かす
- 部活を辞めさせようとする
- 志望校を親が決める
秋(9月〜11月):本格始動の時期
内申点が確定し、志望校が具体化する時期です。
保護者の役割:
- 模試の結果に一喜一憂しない
- 「まだ時間はある」と伝える
- 体調管理をサポートする
NGな対応:
- 模試の点数を責める
- 「このままじゃ落ちる」と脅す
- 志望校を下げるよう圧力をかける
第4章:直前期(12月〜入試)の過ごし方
直前期に親がやるべきこと
① 健康管理に徹する
- 栄養バランスの取れた食事
- 十分な睡眠時間の確保
- 感染症対策(手洗い・換気)
② 「聞かない」を徹底する
- 「勉強してる?」と聞かない
- 「調子どう?」と聞かない
- 「大丈夫?」と聞かない
③ 日常を維持する
- 特別扱いしすぎない
- いつも通りの会話をする
- 笑顔で接する
直前期に親がやってはいけないこと
① 勉強の進捗を確認する
「あと何日だけど、過去問やった?」
→ 本人が一番わかっています。追い詰めるだけです。
② 不安を口にする
「本当に大丈夫?」「間に合うの?」
→ 親の不安は、子どもに伝染します。
③ 他の子と比較する
「○○くんは△△高校だって」
→ 比較は自信を奪います。
第5章:「伸びる子の家庭」と「崩れる子の家庭」
塾で見てきた現実
長年、受験生を見てきて、直前期に伸びる子と崩れる子の違いがはっきり見えてきました。
その違いは、本人の能力ではなく、家庭の雰囲気にあります。
直前期に伸びる子の家庭:「挑戦を応援する」スタンス
伸びる子の保護者には、共通点があります。
「あなたが決めたことを応援する」
このスタンスが、子どもに安心感を与えます。
伸びた子のケース
志望校は、内申点から見るとチャレンジ校。模試の判定もC判定。
でも、保護者は「あなたが行きたいなら、挑戦しよう」と言い続けました。
結果、直前期にぐんぐん伸びて、見事合格。
本人は後から言いました。「親が信じてくれたから、頑張れた」と。
伸びる家庭の特徴:
- 志望校を本人に決めさせる
- 「落ちても大丈夫」と伝える
- 結果ではなく挑戦を評価する
- 家では勉強の話をしない
- 「信じてる」と言葉にする
直前期に崩れる子の家庭:「どうするか聞いてしまう」パターン
崩れる子の家庭には、ある共通点があります。
「どうするの?」「大丈夫なの?」と聞いてしまう
親としては心配だから聞いているだけ。でも、子どもには違うメッセージとして届きます。
「親は自分を信じていない」
崩れた子のケース
成績は十分。志望校も安全圏。
でも、保護者が毎日「勉強してる?」「大丈夫?」と確認していました。
直前期、その子は急に勉強が手につかなくなりました。
「どうせ親は信じてくれない。何をやっても不安がられる」
そう感じてしまったのです。
崩れる家庭の特徴:
- 毎日「勉強した?」と聞く
- 「大丈夫?」「間に合う?」と確認する
- 模試の結果を詳しく聞く
- 志望校を変えるよう提案する
- 親の不安を子どもにぶつける
「心配」と「信頼」の違い
心配と信頼は、似ているようで正反対です。
| 心配(逆効果) | 信頼(効果的) |
|---|---|
| 「大丈夫?」と聞く | 「大丈夫」と言い切る |
| 「勉強してる?」と確認 | 何も聞かない |
| 「落ちたらどうする?」 | 「落ちても大丈夫」 |
| 不安を表情に出す | 笑顔で接する |
| 子どもをコントロール | 子どもを信じる |
心配は、親の不安を子どもに押し付ける行為です。
信頼は、子どもの力を信じて見守る行為です。
第6章:親がプレッシャーをかけすぎるとどうなるか
実際に見てきたケース
これは、実際に塾で見てきたケースです。
プレッシャーで潰れたケース
その子は真面目で、成績も良かった。志望校も十分狙えるレベル。
でも、保護者の期待が非常に高かった。
「もっと上を目指せ」「○○高校じゃないとダメ」
毎日のように勉強の進捗を確認され、模試のたびに結果を詰められた。
12月頃から、その子は塾に来なくなりました。
「もう無理」「期待に応えられない」
結果、受験そのものを諦めかけました。
親の期待が「呪い」になる
親の期待は、適度であれば力になります。
しかし、過度な期待は「呪い」になります。
- 失敗が許されないプレッシャー
- 親を失望させたくない恐怖
- 自分の人生ではなく親のために頑張る感覚
これでは、長続きしません。
第7章:塾からのお願い
家は「安全地帯」にしてください
受験生にとって、家は唯一の安全地帯であるべきです。
学校でも塾でも、常に「頑張れ」と言われています。
家でくらい、何も言われずに過ごさせてあげてください。
勉強のことは塾に任せてください
「ちゃんと勉強してるか心配」——その気持ちはわかります。
でも、勉強の管理は塾がやります。
- 進捗の確認
- 弱点の把握
- スケジュール管理
- モチベーション管理
保護者の皆さんは、勉強以外の部分を支えてください。
不安は塾にぶつけてください
「うちの子、大丈夫でしょうか?」
その不安、子どもではなく、塾に伝えてください。
私たちが状況をお伝えします。一緒に対策を考えます。
子どもに不安をぶつけるのだけは、避けてください。
「信じてる」と伝えてください
直前期に、お子さんに伝えてほしい言葉があります。
「あなたを信じてる」
「結果がどうあれ、応援してる」
「あなたが決めたことを尊重する」
この言葉が、お子さんの力になります。
まとめ:受験期に親ができる最善のこと
- 家を「安全地帯」にする
- 「勉強してる?」と聞かない
- 「大丈夫?」と確認しない
- 挑戦を応援するスタンスを持つ
- 不安は塾に相談する
- 「信じてる」と言葉で伝える
受験は、お子さんの人生です。
親ができるのは、信じて、見守ること。
それが、受験期にできる最善のサポートです。
参考文献
[1] 文部科学省 (2022). 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査
[2] Blakemore, S. J. (2018). Inventing Ourselves: The Secret Life of the Teenage Brain
[3] Deci, E. L., & Ryan, R. M. (2000). The "what" and "why" of goal pursuits. Psychological Inquiry
[4] Dweck, C. S. (2006). Mindset: The New Psychology of Success
[5] 東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所 (2021). 子どもの生活と学びに関する親子調査